雪が舞う北の大地で生まれた一杯のラーメンは、今や札幌の名を世界に知らしめる存在となりました。濃厚な味噌スープに中太の縮れ麺、そして特徴的な野菜と豚肉のトッピング。札幌ラーメンの魅力は、単なる「おいしさ」を超えた、北海道の歴史と文化の結晶とも言えるでしょう。今回は、札幌ラーメンの発祥から現在、そして人気店までを徹底解説します。
札幌ラーメンの歴史 – 意外と新しい伝統食
札幌にラーメンが登場した時代
札幌でラーメンの歴史が始まったのは、意外にも大正時代にさかのぼります。大正11年(1922年)、「竹家食堂」が開業し、これが札幌ラーメンの始まりとされています。「札幌ラーメン」という名称が誕生したのもこの店だとも言われています。
味噌ラーメン誕生のドラマ
札幌ラーメンと言えば「味噌ラーメン」というイメージが強いですが、実は1960年頃までは札幌でも醤油ラーメンが主流でした。味噌ラーメン誕生のきっかけは、現在も札幌中心部で営業している「味の三平」にさかのぼります。
昭和30年(1955年)頃、当時の「味の三平」の店主・大宮守人氏が「ラーメンのスープを味噌味にしたらどうか」と考案したのが始まりです。一説には、店主が自分の昼食に味噌汁をラーメンにかけて食べていたところ、お客さんに「それ、おいしそうだね」と言われたことがきっかけとも言われています。
この味噌ラーメンは見事に受け入れられ、やがて札幌を代表するラーメンスタイルとして確立されていきました。特に1970年代に入ると、より濃厚で味わい深い味噌ラーメンを提供する店が増え、今日の札幌ラーメンの基盤が形成されていきました。

インスタントラーメンの誕生
札幌ラーメンが全国に知られるようになった大きな要因の一つが、インスタントラーメン「サッポロ一番」の誕生です。1968年(昭和43年)9月、ダイヤ食品(現在のサンヨー食品)が「サッポロ柳めん」を発売しました。
当時のサンヨー食品の開発担当者は、全国のラーメンを食べ歩き、札幌のラーメン横丁で理想的な味を発見。それを何度も食べて試作を繰り返し、「サッポロ一番 しょうゆ味」を生み出しました。その後1975年に発売された「サッポロ一番 みそラーメン」は、札幌の味噌ラーメンを全国に広める大きな役割を果たしました。
商品名の「サッポロ一番」は、単に札幌にちなんだものではなく、「札幌でナンバーワンの味」という意味を込めたものだったそうです。このネーミングは大ヒットし、「サッポロ一番」は日本を代表するインスタントラーメンブランドとなりました。
札幌ラーメンの特徴 – 3つの要素が生み出す絶妙な味わい
スープ – 北海道の豊かさを凝縮
札幌ラーメンの最大の特徴は、何と言っても「味噌スープ」です。単に味噌を溶かしただけではなく、豚骨や鶏ガラから取った濃厚なスープをベースに、赤味噌、白味噌、豆味噌などをブレンドして作られます。
特に注目すべきは「ラード」の使用です。ラードを使うことで、寒い札幌の冬でも冷めにくく、また味噌の風味を引き立てる効果があります。店によっては、熱したラードで野菜を炒めた「背脂」も使用し、より濃厚な味わいを生み出しています。
伝統的な札幌ラーメンでは、スープの温度も特徴的です。非常に高温で提供されることが多く、これは寒冷地である札幌の気候に合わせた工夫と言えるでしょう。
麺 – 中太縮れ麺がスープを絡める
札幌ラーメンには、中太のちぢれ麺が使われます。この縮れた形状は、濃厚な味噌スープをよく絡める役割を果たしています。また、コシがあり、噛みごたえのある麺は、ボリュームのあるトッピングやスープとのバランスを取る上でも重要な要素です。
札幌のラーメン店の多くは、地元の製麺所「西山製麺」の麺を使用しており、これが札幌ラーメンの標準的な麺となっています。もちろん各店によって太さや縮れ具合、茹で加減などに独自のこだわりがあります。
トッピング – 野菜の旨味が決め手
札幌ラーメンの特徴的なトッピングは、炒めた野菜です。特にもやしは必須の具材で、これに玉ねぎ、キャベツ、ニンニクなどを加えることが多いです。これらの野菜は単にトッピングとしてのせるだけでなく、一度ラードで炒めることでうま味を引き出し、スープの風味付けにも一役買っています。
また、札幌ラーメンには大きめのチャーシュー(豚肉)が乗せられることが多く、これも濃厚な味噌スープとの相性を考えた結果と言えるでしょう。バターをトッピングする店も多く、これは北海道の酪農文化を反映した特徴です。
近年では、コーンやバターなど、北海道の特産品をトッピングとして使用する店も増えており、より「北海道らしさ」を強調したラーメンが人気を集めています。
札幌ラーメンの系譜 – 2大勢力と多様な進化
「純すみ系」と「信玄系」
現代の札幌ラーメン界には、大きく分けて2つの系統があります。
「純すみ系」 札幌を代表する人気店「すみれ」と「純連(じゅんれん)」から派生した系統です。特徴は濃厚な味噌スープと、炒めた野菜の風味が強いこと。多くの店主がこの2店で修業した後、独立して店を開いています。スープはやや濃厚で、コクと旨味を重視した味わいが特徴です。
「信玄系」 「らーめん信玄」を源流とする系統です。純すみ系に比べると、やや軽めのスープが特徴的。スッキリとした味わいながらも、しっかりとした味噌の風味があり、より繊細な味わいを楽しむことができます。
新世代の札幌ラーメン
近年は、この2大勢力に加え、新たな解釈で札幌ラーメンを進化させる店も増えています。例えば、より健康志向を意識した低脂肪のスープや、地元の農産物を積極的に使ったラーメン、さらには海外の料理技法を取り入れた創作ラーメンなど、多様化が進んでいます。
札幌ラーメンの名店巡り – 必食の9店
札幌には数百店ものラーメン店がひしめいていますが、その中でも特に人気の高い店を紹介します。
1. 味の三平(あじのさんぺい)- 発祥の店
住所: 札幌市中央区南1条西3丁目 大丸藤井セントラルビル4F
特徴: 味噌ラーメン発祥の店として知られる老舗。やや優しめの味噌スープが特徴で、昔ながらの札幌ラーメンを楽しめます。創業60年以上の歴史を持ち、今も変わらぬ味を提供し続けています。
2. すみれ(札幌すすきの店)- 札幌ラーメンの代名詞
住所: 札幌市中央区南3条西3丁目9-2 ピクシスビル2F
特徴: 札幌ラーメンといえば「すみれ」と言われるほどの有名店。濃厚な味噌スープと、たっぷりの野菜が特徴です。常に行列ができる人気店で、海外にも多くのファンがいます。
3. 純連(じゅんれん)- 濃厚スープの元祖
住所: 札幌市豊平区平岸2条17丁目1−41 シャトー純連
特徴: 「すみれ」と並ぶ札幌ラーメンの代表格。特に濃厚な味噌スープで知られ、豊平区の本店は常に地元ファンで賑わっています。湯気が立ちにくい独特のスープは、写真映えすることでも知られています。
4. 麺屋 彩未(さいみ)- 新世代の名店
住所: 札幌市豊平区美園10条5丁目3−12
特徴: 伝統的な札幌ラーメンのエッセンスを守りながらも、独自の進化を遂げています。特に味噌ラーメンは濃厚でありながらクリーミーな味わいが特徴です。
5. 狼スープ(おおかみスープ)- 進化系味噌ラーメン
住所: 札幌市中央区南11条西1丁目5−1 タカイレブンハイム 1F
特徴: すすきのに位置する人気店。洗練された味噌ラーメンが評判です。特に「味噌ラーメン」は、濃厚でありながらも後味がさっぱりしている点が魅力です。
6. らーめん 菅家(かんけ)- 札幌駅近くの人気店
住所: 札幌市中央区北4条西1丁目 JA北農ビル 地下1階
特徴: 札幌駅から徒歩3分の好立地にある人気店。味噌ラーメンはもちろん、塩ラーメンや醤油ラーメンなど多彩なメニューが揃っていることで地元民に愛されています。
7. らーめん 信玄 – 上品な味わいの系譜
住所: 札幌市中央区南6条西8丁目8−2
特徴: 「信玄系」の源流となる店。やや軽めながらも深い味わいの味噌スープが特徴で、繊細な味わいを好む人に人気です。
8. ラーメン しろくま – 熱々スープの人気店
住所: 札幌市白石区栄通18丁目6−20
特徴: 特に熱々のスープで知られる人気店。濃厚な味噌スープに太めの縮れ麺が絡み、寒い冬でも体が温まるラーメンとして地元で人気を集めています。
9. 麺処 白樺山荘 – 濃厚でパンチのある味わい
住所: 札幌市南区真駒内柏丘3丁目1−40
特徴: 食材・タレ・スープの分量を足したり引いたりで完成した味噌ラーメンは濃厚だがくどくない、極上の一杯

インスタントで味わう札幌ラーメン
家庭でも札幌ラーメンの味を楽しみたい方には、インスタントラーメンという選択肢もあります。
サッポロ一番 みそラーメン
言わずと知れた、日本を代表するインスタントラーメンの一つ。本場の札幌ラーメンとは異なる部分もありますが、多くの日本人の「味噌ラーメン」のイメージを形作った商品です。
札幌名店のインスタント版
「すみれ」「純連」などの人気店が監修したインスタントカップラーメンも販売されています。本格的な味わいを自宅で楽しめると人気で、特にお土産としても重宝されています。
札幌ラーメンをおいしく食べるコツ
熱々を逃さず食べる
札幌ラーメンは、非常に熱い状態で提供されることが多いです。これは寒冷地ならではの特徴で、この熱さがラーメンの風味を最大限に引き出します。提供されたらすぐに食べ始めるのがベストです。
スープまで楽しむ
濃厚な味噌スープは札幌ラーメンの魅力の一つ。麺だけでなく、スープまで楽しむことで、その真価を味わうことができます。特に寒い季節には、体の芯から温まる効果も。
地元の人気店を知る
観光客向けの有名店も良いですが、札幌には地元の人だけが知る隠れた名店も多数あります。少し足を延ばして、地元の人に人気の店を訪ねてみるのも一興です。
おわりに – 進化し続ける札幌ラーメン文化
札幌ラーメンは、その誕生から現在に至るまで、常に進化を続けてきました。味噌ラーメン発祥の地として知られるようになった札幌ですが、今や味噌だけでなく、塩、醤油、さらには創作系のラーメンまで、多様な「札幌ラーメン」が存在します。
特に近年は、若い世代の店主たちが伝統を継承しながらも新たな解釈を加え、札幌ラーメン文化をさらに豊かなものにしています。また、海外からの観光客の増加に伴い、札幌ラーメンは国際的にも注目される存在となりました。
北の大地で生まれた一杯のラーメンは、今や日本を代表する食文化の一つとして、これからも多くの人々を魅了し続けるでしょう。札幌を訪れた際には、ぜひ様々な店を巡り、その多様な魅力を体験してみてください。
濃厚なスープの香りに包まれながら、中太の縮れ麺をすする瞬間。それは単なる食事を超えた、札幌という都市の歴史と文化を味わう体験なのです。
この記事を読んで、札幌ラーメンへの興味が湧いた方は、ぜひ実際に札幌を訪れて、本場の味を体験してみてください。一杯のラーメンに込められた歴史と職人の技を、五感で味わう旅に出かけましょう。