「夏のシマエナガ」は別人!? 雪の妖精の知られざる夏の姿に密着

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シマエナガ

ふわふわの白い羽毛に包まれた愛らしい姿で「雪の妖精」と呼ばれ、北海道を代表する人気者となったシマエナガ。SNSで話題となり、グッズ化され、今や北海道を訪れる観光客が「ぜひ見たい!」とリクエストする野鳥となりました。

でも、あの可愛らしいまん丸ボディの鳥は、実は「冬限定」の姿だって知っていましたか?今回は、あまり知られていないシマエナガの夏の姿と生態に迫ります!

目次

「別の鳥!?」夏のシマエナガの驚きの変身

先日、北海道の夏の森で鳥撮影を楽しんでいた時のこと。小さくすばしっこい鳥が木々の間を素早く飛び回る姿を見かけました。背中が茶色っぽく、体がスリムで、一見するとシジュウカラの仲間のようにも見えます。しかしよく観察すると、あの特徴的な長い尾羽が…。そう、これが夏のシマエナガだったのです!

冬のあのモフモフまん丸の姿からは想像もつかないほど変身しているのです。

夏のシマエナガは、冬毛が抜け落ち、スリムで短い夏毛に生え変わります。真っ白だった体には茶色の羽が混じり、全体的に引き締まったスタイリッシュな姿になるのです。これは3月下旬から始まる換羽(羽の生え変わり)によるもので、夏の間は「雪の妖精」というよりも「森のアクロバット」といった印象に近くなります。

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その変身には理由がある!シマエナガの賢い適応戦略

シマエナガが季節によって姿を変えるのには、ちゃんとした理由があります。冬のあのふわふわモコモコな姿は、厳しい北海道の寒さを乗り切るための賢い適応なのです。

冬毛は羽の間に空気をたくさん含んで断熱層を作り、体温を逃がさないよう保温する役割を果たしています。マシュマロのようなまん丸の姿は、実は生存のための切実な必要性から生まれたものなのです。

一方、暖かい時期になるとそれほどの保温は必要なくなります。むしろ活発に飛び回るには、身軽なほうが有利。木々の間を素早く移動して昆虫を捕らえるために、夏は機能的なスリムな体型に変わるのです。

夏のシマエナガを見つける難しさ

冬のシマエナガは、雪景色の中で白い体が目立つこともあり(それでも小さいですが)、公園や住宅地でも見かけやすくなります。しかし夏のシマエナガは、葉の生い茂った森の中ではかなり見つけにくい存在です。

茶色っぽい体色は緑の葉の間に溶け込み、その上スピードも速く、ほんの一瞬で視界から消えてしまいます。夏のシマエナガを見つけるには、「チリリリ」という特徴的な鳴き声を頼りにするのがコツ。森の中で鳴き声がしたら、その方向の木の枝先をじっと観察してみてください。

シマエナガは群れで行動することが多いので、一羽見つけたら近くにも仲間がいる可能性が高いです。夏の静かな森の中で、小さな「チリリリ」という鳴き声に耳を澄ませてみると、新たな発見があるかもしれません。

驚異の巣作り職人!シマエナガの夏の仕事

シマエナガの魅力は外見だけではありません。彼らの巣作りの技術は、鳥類の中でも最も精巧なものの一つとして知られています。

春から夏にかけての繁殖期、シマエナガはカップルで協力して球形の巣を作ります。コケやシダの繊維、草の茎などを集め、それをクモの糸で編み上げていくのです。完成した巣は、まるで芸術作品のよう。外側は地衣類で装飾され、入口は上部に小さな穴一つだけ。内部は鳥の羽や獣毛などの柔らかい素材で覆われています。

一つの巣を作るのに約2週間かかるといわれていますが、この労力は子育ての安全を確保するためのもの。シマエナガの巣は保温性と防水性に優れ、北海道の変わりやすい春の天候からヒナを守る完璧な「ゆりかご」となります。

愛のチームワーク!シマエナガの子育て

愛情深いことでも知られるシマエナガのカップル。巣づくりから子育てまで、二羽で協力して取り組みます。

巣が完成すると、メスは6〜12個もの卵を産みます。驚くべきことに、この小さな体で、自分の体重の半分以上にもなる量の卵を産むのです!そして、オスとメスが交代で抱卵する共同作業で、約2週間後にヒナがかえります。

生まれたヒナは、両親が懸命に昆虫や蜘蛛などを運んできて育てます。特に子育て期間中のシマエナガは、ものすごいスピードで餌を探し回ります。一日中、ひっきりなしに巣と餌場を往復する親鳥の姿は、まさに子育ての忙しさを体現しているようです。

巣立ちまでの約2週間、親鳥は休む間もなく餌運びを続けます。そして無事に巣立ったヒナたちは、すぐに他の家族と合流して群れを形成。冬に向けて共に生き抜く準備を始めるのです。

シマエナガの夏を観察する魅力

冬のシマエナガも素晴らしいですが、夏のシマエナガにも独自の魅力があります。巣作りや子育てといった、生命の営みを垣間見ることができるのは、夏ならではの特権です。

北海道の夏の森を訪れる際には、シマエナガの姿も探してみてください。冬とは全く異なる姿と行動を観察することで、この小さな鳥への理解と愛情がより深まるはずです。

ただし、観察や撮影の際は、繁殖活動の妨げにならないよう、適切な距離を保つことが大切です。特に巣に近づきすぎると、親鳥に大きなストレスを与えてしまう可能性があります。

「雪の妖精」から「森のアクロバット」へ

私たちがSNSなどで目にする「雪の妖精」シマエナガの姿は、実はこの鳥の生活の一部分に過ぎません。季節によって姿を変え、環境に適応しながら北海道の自然の中でたくましく生きるシマエナガの全体像は、もっと多面的で興味深いものなのです。

次に北海道を訪れる機会があれば、季節を問わずシマエナガに出会ってみてください。冬の「雪の妖精」も夏の「森のアクロバット」も、どちらも同じ鳥の異なる表情として、きっと心に残る出会いになるはずです。

シマエナガが教えてくれるのは、生き物の驚くべき適応力と、四季折々の自然の中で命をつないでいく小さな物語。それは私たち人間にとっても、大切な学びの機会なのかもしれませんね。

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